下宮 憲二

機動隊が、デモ!?

こんにちは、広島事務所の下宮憲二です。

 先日、お昼に街のアーケードを歩いていると、一瞬、機動隊がデモ行進しているのか?と思う様な光景を目にしました。実際は、ある団体が某島の領有権を主張しているデモだったのですが、そのデモの周りをびっしりと機動隊が囲んでいたので、私は、機動隊が「○○島を返せ!」とプラカードを掲げながら拡声器で大声を張り上げていると勘違いしてしまいました。
 また、別の日に、原爆ドームの近くを仕事で通っていると、今度は、「原発反対!」というプラカードを掲げた市民団体のデモの周囲を機動隊が囲んでいる様子を目にしました。
 これって、表現の自由との関係では問題ないのでしょうか。

 憲法21条1項には、表現の自由が保障されています。表現の自由は、これを保障することによって個人が表現行為により自分のやりたいことを行い、政治への意見表明を通じて自らを統治していくというもので、非常に重要な権利とされています。(憲法に興味を持たれた方は、「憲法がしゃべった。~世界一やさしい憲法の授業~」木山 泰嗣 (著) がお勧めです。憲法の概要をまるで絵本を読んでいるかのような感覚で説明された本です。私たちの国の最高法規に、私たちの権利がどのように規定されているのか知るきっかけとなる絶好の本です。)

 現在、中東・北アフリカでは民主化の動きが活発です。民衆による民主化を求めるデモ行進などが行われています。これに対して、民主化を押さえ込もうとする政権が、軍隊などによってデモを制圧し、時には死傷者まで出る惨事となっています。
 これは、国民の表現の自由を、国家権力が制約している最たるもので人権侵害の典型的な場面といえます。

 これに対して、日本でのデモの場合はどうでしょうか。
道路でデモをするには、警察署長の許可、公安委員会の許可が必要とされています(道路交通法、県公安条例)。この許可は、表現の自由と交通の安全、公共の安全・秩序との調和の観点から必要とされています。
 確かに、デモ行進が自由になされると道路交通の混乱を起こすこともあるでしょうし、デモ行進が統制を失って暴徒化する場合もあるでしょう。さらに、日本にも様々な考えを持っている人がいて、中には、自分と異なる意見を持っている人に反感を持つ人がデモへ突入し、混乱を生じさせるかもしれません。このような混乱に備えてある意味、機動隊がデモ行進を守っているようにも思えます。北アフリカでは、国家権力がデモを押さえ込もうとしていますが、日本では国家権力がデモを守っているように見えるのは何かおかしな気がします。
 しかし、本当にデモ行進が守られていると言えるのでしょうか。デモをしている人からしたら、自分たちのメッセージを周りの人に多く知ってもらいたいと思ってデモをしているはずです。デモ行進は、テレビなどのマスメディアを利用せずに、お金がなくても誰でも利用できる手段のひとつとして、出来るだけ保障されなければならない行為と考えられています。にもかかわらず、デモ行進の周囲を機動隊に囲まれては、どんな団体がどのような主張をしているのかがはっきりしなくなってきます。私が当初感じたように、機動隊が何かやっているだなぁとの印象しか持たない方もいるのではないでしょうか。
 このような機動隊が周囲を囲むような措置については、その法的根拠がはっきりせず問題になるのではないでしょうか。そのような措置が法律の根拠なく行われているとしたら、表現の自由に対する大きな制約です。中東や北アフリカでの惨事を対岸の火事とのん気に見ていられません。

 機動隊がデモを行っているよう見えるうちは、まだまだ日本においても表現の自由が最大限保障されているとは言えないかもしれませんね。