蓮見 和章

ロンドンオリンピックの開催国~サッカーイギリス代表

 こんにちは、広島事務所の蓮見です。

 7月に入り、いよいよ今月からロンドンオリンピックが始まりますね。先日は、サッカー男女の代表選考があり、当落線上の選手の明暗がはっきりわかれた様子が報道されていました。サッカーにはW杯という最大のイベントがありますが、オリンピックは誰もが知っているスポーツの祭典ですから、サッカー選手にとってもオリンピック出場は夢の一つだと思います。選考過程から様々ドラマがあるようですが、選ばれた選手には日本を代表して頑張ってほしいところです。

 さて、ここで一つクイズを

 ロンドンオリンピックの開催国はどこでしょうか?

 そうです。イギリスですね。

 時を同じくして、開催国であるイギリスのサッカー代表選手の発表もありました。出場を熱望していたベッカム選手が落選したものの、香川選手が移籍するマンチェスターユナイテッド所属のベテラン、ギグス選手が選ばれるなど、開催国として男女とも金メダルを狙えるメンバーを選んだようです。

 ところで、皆さんは、サッカー「イギリス代表」ってどんなユニホームなのかご存じですか?そもそも「イギリス代表」のサッカーの試合、観たことがありますか?

 この質問に答えられる人はかなりのサッカー通だと思います。

 ベッカム選手が選ばれそうになったということは、あの白と赤を基調としたユニホームでしょ。ワールドカップにも出ている常連国じゃん!

 そう思われた方!残念、それはイングランド代表であってイギリス代表ではありません。

 実はサッカーの世界において、イギリス代表というのはオリンピックの時だけ結成されるいわば急造チームなのです。

 国際サッカー連盟(FIFA)では、主にイギリスを構成するイングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランド等の各地域は独自のサッカー協会で登録しており、イギリスサッカー協会というものは存在しません。これは、サッカー発祥の地であるイギリス国内においては、もともと他の国にサッカーの文化が広がるだいぶ前から、地域に分かれて対抗戦等を行う、いわばライバル関係であったことから、サッカーが世界に広がって世界大会を開催する時期には、もう4つを一つにまとめることが困難だったことによるようです。実はラグビーやクリケットなども、同様の理由で4つの地域に協会が分かれています。

 他方オリンピックは、国際オリンピック委員会(IOC)に加盟している国と地域単位で参加できるところ、イギリス(UK)は国単位で登録しているためイギリス代表という形でしか参加することができません。したがって、サッカーの場合は、W杯とオリンピックで出場するチーム構成がどうしても異なってしまうのです。

  しかし、この4つの協会、それぞれ個性が強く、ライバル意識はさらに強いことからなかなか一つのチームにまとまることができません。これまでオリンピックに出場することができても、イギリス代表として戦っている選手は全員イングランド出身の選手でした。

 今回も、自国開催ということで、何とかすべての地域の選手から選抜しようと試みたようですが、結果うまくいかずイングランドから13人、ウエールズからはギグスを含め5人選出されたものの、スコットランドや北アイルランドからは選出されませんでした。

 サッカーではなかなか統一することのできないイギリスですが、実はこの4つの地域、法律においても統一されていません。イングランドとウエールズは判例法を重視する英米法に由来するイングランド法の法域であるのですが、スコットランドは大陸法の色合いを強くもつスコットランド法が適用されますし、北アイルランドも他の3つとは異なる法律が適用されています。もちろん、税や労働の分野などイギリス全土でほぼ統一されている部分もあるのですが、基本的にはそれぞれの地域の議会で法律を制定し、それぞれの司法制度に基づいて法適用がなされていて、日本の民法や刑法の分野では全く異なる法律が適用されています。

 例えば、イングランドでは、法律上18歳で成人として扱われるのに対し、スコットランドでは16歳で成人と認められ、独自に契約等を結ぶ能力が認められます。また、相続の仕組みや、日本の裁判員裁判にあたる陪審員の制度も大きく異なるものになっていますし(スコットランドでは有罪・無罪でもない「証明されず」という種類の判決があります。)、そもそも弁護士資格についても名称や資格取得要件、権限等について大きな違いがあります。

  このように大きく異なる法制度で生活していれば、もう実質は他国のような感覚が起きてしまっても仕方がないのかもしれません。立法、司法、そして行政までも独立国家並の権限が与えられているスコットランドでは、イギリスからの独立を求める声もあるようです。

 そのような背景がある中での、今回の代表選考。スコットランドのサッカー界は、かつて中村俊輔選手が所属したセルティックや、レンジャースなど、欧州の主要大会でも活躍するクラブも存在し、それなりのレベルにあります。実力のある選手も少なからずいるはずで、イギリス代表に一人も選出されないのは単に実力だけの問題ではないような気もしてしまいます。

  オリンピック開催国にもかかわらず、イギリス代表としてオリンピックに出場できない。仮に政治的な理由で、実力があるにもかかわらず落選してしまった選手がいたとしたら、その選手は何を思うのでしょうか。

 「僕だって、イギリス国民だ。イギリスのために戦いたかった。」

 「いや、ロンドンオリンピックの開催国はイングランドでしょ。僕は開催国の選手じゃないし。」

 ロンドンオリンピックでは、サッカーに限らず多くの種目でのイギリス代表選手の活躍が報道されると思います。その選手がどの地域の出身で、イギリス(国旗や国歌)に対してどのような思いを抱いているのか、その活躍にイギリス国内はどのような反応をするのか、せっかく観戦するのですから、そのような政治的な側面にも注目してみたいと思います。テレビ観戦ですが・・・・。(いつかは現地で朝から一日中オリンピックを観戦したいというのは私の子どものころからの夢です。)

 2012年ロンドンオリンピックの開催国は?

 その答えは、(私の中では)オリンピックを観戦してみてから出したいと思います。