蓮見 和章

「喝!」なプレーの産みの親~公認野球規則

 広島事務所の蓮見です。

 先日プロ野球の交流戦で、こんな珍事件がありました。

 広島対オリックス戦で、広島は先発メンバーに7番指名打者で投手登録の今村猛の名前を入れました。これはいわゆる「偵察メンバー」といものです。「偵察メンバー」とは、相手の先発投手が誰になるか読めない場合に、とりあえず先発に名を連ねる選手のことであり、通常はその日当番予定のないローテーション投手がなります。監督は試合が始まってからすぐにその選手を変えて相手の先発投手と相性のいい選手を入れることで、試合を優位にすすめようと、しばしば「偵察メンバー」を先発に入れることがあります。

 しかし、プロ野球を始めとした日本野球のルールを定めている公認野球規則によると、「試合開始前に交換された打順表に記載された指名打者は、相手チームの先発投手に対して少なくとも一度は打撃を完了できなければ交代できない。」とされています。つまり、今村投手は、先発指名打者に名を連ねた以上一度は打席にたたないといけないのです。これでは「偵察メンバー」の意味をなしません。

 広島の野村監督は、おそらく交流戦になって指名打者が使えることから「「偵察メンバー」を指名打者にして下位打線の7番に置いておけば、打順が回ってこなければ初回の守備機会で代える必要がないから、相手の先発投手の調子も見てからじっくり選手を選ぶことができる。これはラッキーだ。」とでも考えたのでしょう。「偵察メンバー」は基本的に予告先発のないセリーグしか行いませんから、策士の野村監督としてはルールの隙間をついたつもりだったのでしょうが、監督である以上野球規則はしっかり知っておかなければなりません。天国から大沢親分の「喝!」が聞こえてくるくらいの大失態です。

 この野球のルールを定めた公認野球規則、規則というだけあって法律のように全10章203条の条文からなるのですが、「2アウトなのにスタンドにボールを投げてしまってランナーを進塁させてしまった。」とか「代打で出たけど、打席を終える前に走者が盗塁失敗になって連続試合出場が途絶えてしまった。」等、読んでみると公認野球規則が産み出す珍プレーは結構多いのだなと感じます。

 ただ、職業柄か規則を読んでいると、ついつい条文の解釈をはじめてしまいます。

 規則では走者に2個の進塁が与えられる場合として、
「送球がスタンド又はベンチに入った場合(ベンチの場合はリバウンドして競技場に戻ったかを問わない)。」
 と規定されているので、
「スタンドからボールがリバウンドして返ってきた場合は進塁規定は適用されないのでは。」と考えてみたり、
「(連続試合出場に関し)プレーヤーが連続試合出場の要件を満たさないうちに、審判員によって試合から除かれた場合は、この連続試合出場の記録が中断されたことにはならない。」
と規定されているのを見て
「盗塁失敗のジャッジに関して猛抗議して退場処分になっていたら連続試合出場は途切れなかったのでは。」とついついいろいろな事態を想像してしまいます。

 この公認規則、少し大きな書店なら置いてあるそうなのでぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。野球のルールをある程度知っている方なら、法律や規則を身近に感じるいい機会になるかも知れません。ちなみに公認野球規則には、こんな規定もあります。

 通常打率の順位を決めるには規定打席(試合数に応じた一定の打席)に達していることが前提となっているのですが例外規定として

  「規定打席に満たない場合に不足分の打席を凡打として加算して計算された打率が規定打席到達者の打率1位の値を上回れば、規定打席未到達でも首位打者とする」

 これは首位打者のみに関する例外規定で、2位以下の打率ランキングには反映されません。「試合出場は少なくても天才打者にはタイトルを」ということなのでしょう。 ちなみにこの例外規定、同様の規定のあるメジャーリーグや日本でも2軍では適用例がありますが、日本プロ野球の1軍では、まだ適用された例は無いそうです。

 日本のプロ野球でも、いつの日か公認野球規則による『「あっぱれ!」な首位打者』が誕生してほしいなと思いました。