蓮見 和章

鋳物工場がなくなる?~頑張れ川口!

 こんにちは、広島事務所の蓮見です。さて、以前のブログでも書きましたが、私は埼玉県出身です。埼玉と言えば、旧浦和市や旧大宮市のさいたま市が一番大きい市になりますが、私の出身は、さいたま市と隣接する川口市です。広島では、「埼玉の川口出身です。」といっても「川口?」という感じで聞き返されることの多い川口市ですが、人口60万人弱で埼玉ではさいたま市の次に人口の多い街です(浦和市と大宮市が合併される前は川口市が埼玉県で一番人口の多い市でした)。

 川口といえば鋳物の街、昔は当時の国民的スターの吉永さゆりが主演の「キューポラのある街」という映画がヒットし、東京オリンピックで使われた国立競技場の聖火台も川口の鋳物工場で作られました。今思えば大したお国自慢でもありませんが、小学校の社会科の授業で習った時は子供ながらに川口市に住んでいることに誇りをもったものです。

 バブルが崩壊し、鋳物の需要も少なくなるなかで、鋳物工場は次々になくなって行きました。それでも、そんな不景気に負けず、川口は市をあげて鋳物の需要拡大や一つでも多くの鋳物工場が存続できるように頑張ってきました。今回川口についてなぜ熱く書いているかというと、先日ネットのニュースで「川口」という名前を目にしたからです。

 「川口商工会議所がT京電力を独禁法違反の申告へ 値上げが「鋳物の街」を直撃」
 かのT電が今月から企業向け電気料金を17%値上げした事に対して、川口商工会議所が、公正取引委員会に是正措置を求める申告書を提出するというのです。

 川口商工会議所は、「T電は首都圏を独占している、自由化部門の値上げは政府認可が不要であることを楯に、優越的地位を利用して値上げを一方的に強要するものに他ならない」と主張しています。

 簡単にいうと、T電は、首都圏における電気供給事業を独占していて、電気の供給を受けている業者は、T電の料金が値上げされたり、サービスがおざなりになっても簡単に取引を停止して他の業者に切り替えることができない。それをいいことに料金を一方的にあげるのは、独占禁止法の定める「優越的な地位の濫用」として許されないのではないかという主張です。

 鋳物工場では、金属などの原材料を溶かし込むために大量の電気を使っており、現在でも月額数百万円に及ぶ電気代を支払っている工場もあります。その中で電気代が17%もアップしてしまうと、工場の経営が成り立たなくなってしまうのは、会社経営をされている方でなくてもおわかり頂けると思います。

 それでも商工会議所は別にT電が憎くて値上げに反対しているわけではありません。商工会議所の会頭は、「やみくもな反対ではなく、17%値上げの根拠が不明確だと指摘している。」とT電からの明確な説明なしに値上げしたことに不満を口にしているのです。

 しかし、T電はこのような中小企業の経営者達の値上げ反対の声に対して「顧客が値上げに応じず、電気代を支払わない場合、電気供給を停止する。」旨のコメントをし、徹底的に争う姿勢を見せています。

 私は、T電の値上げ自体が是が非かということに関してどうこういうつもりはありません。ただ、T電は電気事業法という法律によって、市民からの電気供給を拒めず、契約締結が義務化されています。つまり、いくら民間会社と言えども「公営企業」としての側面はどうしてもあり、電気供給というライフラインに関わる事業において、値上げに関する合理的な説明なしに上記のコメントを発するという感覚は、一般市民の感覚とは大きなずれがあります。まさに今T電が国民から批判されているのはこの感覚が企業内に蔓延しているところにあるのでしょう。以前マラソンの五輪代表選考のブログにも書きましたが、一般の人に特定の分野をわかりやすく説明できるのがプロであって、値上げの理由について、使用者に満足に説明できないというのは大いに問題があると思います。

 さて、話しがそれましたが、川口商工会議所の件、公正取引委員会がどのような判断をするのか、興味があります。電力供給は公営的な側面があり、震災や原発の関係によりある程度の電気の値上げは合理的と国も容認している側面もあるかも知れませんが、独占禁止法の規制する事業者には、経済的事業を行う国や地方公共団体も含まれることからすると、電気の供給といえども優越的地位を利用した値上げであれば許されるべきではありません。
 

 地域独占の会社にそこまで許していいのか。判断は分かれるところだと思いますが、公正取引委員会は、裁判所に準じた立場で審査する権限を有する組織で、審査委員には独立性(行政や特定の団体から圧力を受けることがない)が保たれていますので、川口商工会議所の主張が通る可能性もあると思っています。

 鋳物自体の需要の減少ではない、かのT電の合理的説明なしの値上げで、幼い頃から慣れ親しんだ鋳物工場が無くなってしまうのはとても悲しく感じます。川口商工会議所には納得いくまで闘ってほしいと思いますし、T電には改めて誠意ある対応をお願いしたいと思います。